プロダクトデザイナー。フィンランドで家具デザインを学び、帰国後はジャスパー・モリソンの東京スタジオに勤務。2011年に自身のデザインオフィス「kumano」を設立。家具やプロダクトを中心に国内外で活動するほか、武蔵野美術大学で教鞭を執る。東京と長野・御代田の二拠点で生活。
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21歳から28歳までフィンランドで過ごされたそうですね。当時の経験は、今の熊野さんにどのような影響を与えていますか?
一番大きいのは、時間の捉え方かもしれません。フィンランドの人たちは、目先のことだけではなく、すごく長いスパンで物事を考えているんです。特に冬は厳しい環境なので、思い通りにいかないことも多い。それでも一喜一憂せず、少しずつ着実にやっていく。派手さはなくても、それが長い目で見ると大きな一歩になるということを学びました。
その後、ジャスパー・モリソンのもとで働いた経験から学んだことは?
ジャスパーは「使う人のためのデザイン」を大切にしています。いいモノでも、コストが高ければ限られた人にしか届かない。妥協するのではなく、工夫してコストを抑えることで、いいデザインをより多くの人に届ける。「デザインはみんなのもの」という考え方は、今の自分にもつながっています。
熊野さん自身がモノをデザインするときに、大切にしていることは?
自分のエゴだけでモノづくりをしないことですね。つくる人がいて、使う人がいて、デザイナーがいる。その三角形のバランスを常に考えながらデザインすることを大切にしています。
大学で教えていることも、その考え方に基づいているのでは?
そうですね。僕はデザインって共有するものだと思っているんです。一人の人が独占するのではなく、知識を伝え、次の世代へ継承していく。日本には豊かな文化があるので、それを次につないで、いろいろな人に波及していけばいいなと思っています。独占して、閉ざしてしまうと、デザインはつまらないものになってしまいますから。
東京と長野・御代田の二拠点で生活されています。なぜ御代田にも拠点を持ったのでしょう?
もう少し、きちんと生活しながら仕事をしなきゃいけないと思ったんです。僕は生活に関わるモノをつくっているのに、東京では自分がデザインしたテーブルを自宅に置けないこともある。それでは説得力がないなと。それに、頭で考えるだけではなく、実際の体験から生まれるデザインをしたいという思いもありました。東京にいると、どうしても消費する側になってしまう。だから、もっと土に近いところで、自分自身がいろいろなことを体験したかったんです。
御代田ではどんな生活をしていますか?
コンポストをつくったり、鶏を育てたり、田んぼで米を育てたりしています。御代田は、そういう体験を通してインプットする場所。東京は、自分がやっていることを発表したり、発信したりするアウトプットの場所。自分のなかでは、それぞれ場所の機能が違うんです。
東京と御代田では、着る服も変わりますか?
変わりますね。御代田では、ちょっと膝をついて土を触ったり、木を切ったりしたい。服がきれいすぎることで、その一歩を踏み出せない状況にはしたくないんです。だから、汚れてもいい服と、きれいに長く着たい服は分けています。
今回、水沢ダウン「インビジブルダウンハーフコート」を着てみて、印象に残ったところは?
まず、表地の肌触りがすごくいいなと思いました。歩いたり、腕を組んだり、ポケットに手を入れたりしていると、意外と自分が服に触れていることにも気づいて。ジッパーや袖など細部までよく考えられているし、とても暖かく、それでいて防水性があったりと機能性がありながら、形やシルエットもきれいにまとまっている。その機能とデザインのバランスも含めて、総合点がすごく高いと感じました。
家具と服には、プロダクトとして共通するところもありますか?
ありますね。どちらも人が直接触れる、身体性の高いものです。椅子であれば、人の体重を支えながら、そこで過ごす時間を受け止めている。服も同じで、着て座ったり、ポケットに手を入れたりと、常に身体と接しています。今回のコートは、表地の肌触りやジッパー、袖まわりなど、実際に着て動くことで気づく部分がいろいろありました。そういうところまで含めて考えると、改めてダウンもすごいプロダクトなんだなと思いました。
DESCENTE ALLTERRAINでは「Form Follows Function(形態は機能に従う)」という考え方を大切にしています。この言葉について、熊野さんはどう捉えていますか?
すごく好きな考え方です。目で見たときに機能が伝わって、自然に使うことができて、求めている機能にきちんと応えてくれる。それが形に表れているということですよね。きれいなデザインも、ただきれいだったり、かっこよかったりするだけではなくて、そこにはきちんと考え抜かれた理由がある。機能性や生産性といったものが、その形の背景にちゃんとある。そういうデザインに共感を持ちます。